フィンランドのタカタルヴィと春の訪れ

フィンランドに暮らす人々の間での共通認識といえば、「11月は光が無さすぎて気分が滅入る」。冬至に向けて日照時間がどんどん短くなる日々に、なんとか気持ちを上げようと人それぞれに工夫を凝らしている印象です。

この「11月最恐説」の影に隠れてしれっと存在しながらも、地味にクセが強いのが3月から4月へ移り変わるちょうど今の時期だというのが私の持論です。同じヨーロッパでも南に目をやればなんだか気候が春めいてくる気配。店頭に並ぶファッションは春物。しかも日本からは「桜前線」なんて言葉まで聞こえてきます。

なのに!

フィンランドの3-4月は、まだ雪解けのシーズンです。どんどん解けていくならまだ希望が持てますが、油断すると雪が降ります。しかも結構本気で降るので滑りやすい路面に逆戻りです。こうした「寒の戻り」をフィンランド語では「takatalvi」(タカタルヴィ)と言いますが、これを話題にする時の皆さんの表情といったら・・。苦笑いや眉間の皺をご想像いただくと伝わりますかね。

解けては降り・・解けては凍り・・を繰り返すこと約1ヶ月。最終的に路面から雪がなくなっていくと残るのは砂利です。路面凍結による転倒予防に、冬季を通じて歩道には砂利がまかれるフィンランド。この砂利は地味にこの時期の風物詩になっています。風が吹けば埃が舞い、車道に落ちた砂利の上を車が走れば砂利が飛んでフロントガラスに傷をつけることも・・。

「またこの時期か・・(小さなため息)」という存在だからこそ、ヘルシンキ市環境局のXでは先日こんな投稿がありました。

出典: https://twitter.com/HelsinkiKymp

「誰もが待ち望んだ3つの言葉」というテキストの下には、鳥肌が立つほどゾクゾクしてしまう魔法の囁きが・・。

Katupesut ovat alkaneet(道路の洗浄、始まりましたよ)

砂利をきれいに回収し、洗い流してくれる作業車が道のあちこちにもうすぐ現れるはずです。ああ、待ちきれない!

暗い11月を抜けた先にクリスマスというご褒美が待っているように、タカタルヴィを耐えた先にも大きなリターンがあります。イースター(復活祭)です。今年は3月31日が西方教会の定めるイースター当日にあたるため、キリスト教の習慣により3月29日のグッドフライデーから4月1日のイースターマンデーまでの4日間がお休みでした。

雪と砂利に覆われた気温0℃の屋外では「イースターエッグを隠そう!」とエッグハントをするのはなかなか難しいですが、それでも「復活=生命力の象徴」としてうさぎやひよこ、卵の飾りをインテリアに取り入れたり、成長が早いホソムギ(rairuoho ライルオホ)を育てたり、各家庭や店先、職場で様々にイースターを楽しむ習慣があります。色鮮やかなチューリップが店頭に並ぶのも毎年この時期です。

イースター休暇中は家族で集まってラム肉をいただく習慣も。デザートにはフィンランド特有のスイーツ、mämmi マンミを。見た目は少し独特ですが、ねっとりした食感と優しい甘みにほっとできる安定のイースターの味です。イースタースイーツといえば、チョコエッグも素通りできません。ムーミンなど可愛いキャラクターのチョコエッグを買って中身のおもちゃを楽しみに開けたり、実際にチョコエッグにペイントをしてみたり。

ちなみにペイントしたのは本物の卵の殻。老舗チョコレートメーカーFazer  ファッツェルには、本物の卵の殻の中にチョコレートを詰めたMignonという伝統的な商品があるのです。卵一個分のチョコレートは結構なずっしり感ですが、毎年ペロッと食べてしまいます。

そういえば自分で撮影した写真を眺めていて苦笑してしまったことがあったので、ここで吐露させてください。先日ノルウェーの首都、オスロを訪れる機会がありました。オスロといえば王宮!街の中心地を晴れやかに延びる大通りの先に立派な王宮がドーンと構えており、街を訪れる人々は街の象徴であるこの場所を必ずと言って良いほど訪れます。ええ、私も参りました。カメラ片手に。そして撮影したカットがこちらです。

王宮は?大通りはどこいった?おーい、私!

外を歩いている際、道端に咲く花を目にする機会は9月から4月までないのですよ。フィンランドでは。王宮前の道の端に可愛らしく自生するこの花を見た瞬間、思わず「おお!」とカメラを向けてしまうこの性分・・。おそらく長いフィンランド生活で培われたと思われます。王宮よりも、大通りよりも、野の花が貴重なのです。

暗い冬と白夜の夏に挟まれた、クセつよタカタルヴィ月間。この記事を読みながら「うわあ・・・(眉間に皺)」となった皆様、そこが重要なのですよ。ここを共有したなら、春の光の美しさ、花の可愛らしさに必ずや開眼するはずです。春は!何を見ても!美しく尊い!3-4月を乗り越えたからこそ分かる、フィンランドならではの幸せでしょうか。ヘルシンキにも早く春が来てほしいです。

この記事のライター

歌野 嘉子
歌野 嘉子コーディネーター(オフィスウタノ株式会社)
2004年よりフィンランド在住。ヘルシンキ大学大学院留学、現地旅行会社等勤務を経て、2012年ヘルシンキにてオフィスウタノ株式会社を設立。メディア、イベント、ビジネスの分野にて、フィンランドと日本を結ぶコーディネート業務を担当。その他、ヘアサロン事業や日本の美しいデザインプロダクトを北欧に展開するエージェント事業も展開。