デザイン都市、ヘルシンキ
ヘルシンキは2012年にワールド・デザイン・キャピタルに選出され、文化、社会そして経済を発展させるツールとしてデザインを活用していくプロジェクトの一環として、数々の展覧会やイベントが開催されました。10年経った今、人々の生活にはデザインが浸透しており、ヘルシンキは国際的にもますますデザイン都市として知られるようになりました。
ヘルシンキデザインウィーク
そんなヘルシンキの街がデザイン一色に染まるのが、9月頭に開催されるヘルシンキデザインウィーク(略:HDW )。町のあちらこちらで、約250ものイベントが開かれます。毎回ユニークな会場でメイン展示が開催されるのですが、2020年にはリノベーションが完成したばかりのオリンピックスタジアムが展示会場となり話題を呼びました。
私の作品もセレクトされ、Inner flower(内なる花)というタイトルのインスタレーションを展示することになりました。コロナ禍で、通常の生活ができなくなり、制限を強いられ、不安になる人々が多かった時期だったので、何か光を感じられるような展示にしようと思い、このテーマを選びました。
Inner flower(内なる花)
どの人にも心の中に自分だけの花があり、人生を通して水を与えたり、手間ヒマかけながら育てていきます。私たちは今、今までに体験したことのないような新しい挑戦に直面しています。今こそ、それぞれの内側に花咲く色とりどりの花たちをリスペクトし合い、感謝し、褒め合うことが必要だと感じています。一つ一つの形や色が違うことこそ、素晴らしいのです。この展示では、「内なる花」をテキスタイルとペインティングの手法を通して表現しています。
手を繋いで踊っているような花たちは、マティスのダンスからインスピレーションを受けています。友人と手もつなげないような非常事態ですが、手をつなぐことの温かさ、そして、心はせめてつながっていたいという想いを込めました。そして、50年という長い時をフィンランドで過ごし、たくさんのことを教えてくださった石本藤雄さんに感謝の気持ちを込めて、この花を描きました。
HDWのメイン会場
2022年のHDWのメイン会場は、1960年代にアルヴァ・アアルトが設計したシュガーキューブと呼ばれているストラ・エンソという林産企業の元本社。本社を移転するため、空き物件となっていたスペースをイベント会場としてオープンしました。この界隈にある、フィンランド産の食材を美しく、そして丹精込めた料理で定評のあるクールナというレストランがポップアップレストランをオープン。予約が数時間で埋まってしまうほどの人気でしたが、併設のワインバーは予約なしで入れるようになっています。普段は立ち入ることが難しかったアアルト建築なので、この機会に訪れることができるのはデザイン好きにとってもうれしいニュースです。
フィンランド最大のデザインフェア
デザインウィーク中のもう一つの重要なイベントは、ハビターレ。フィンランド最大のデザインフェアで、1970年代から続く人気フェアです。このフェアの特徴は、消費者向けのフェアという点で、毎年3万人ほどの来場者を誇ります。ハビターレの人気度は、フィンランドの人々がインテリアに関心があるかというのをよく示しています。
フェアの見所はThe block部門。若手デザイナーやフリーランスのデザイナーが展示をするエリアで、Talent shopという20年続く名物展示があります。こちらは学生や若手デザイナーの未発表の作品を募り、セレクトし、展示するコーナーで、私も学生時代にジャガード織りのブランケットを展示した経験があります。
今年はUdumbara というフィンランド産の赤土から作られた陶器を作る作家と一緒に展示をすることにしました。フリーランスとして、フィンランドや日本の企業にデザインを提供するほか、森のシリーズという長く提供できるような作品を作っているのですが、そちらの新作と版画作品を展示しています。フェアに参加することで、一般消費者の声が直接聞こえてくるので、作品づくりをする上にも大変貴重な体験となります。制作は一人で行うことが多いので、こういう交流の場を持つことも重要だととらえています。
子供とデザイン
ハビターレには毎年ハビキッズという子供向けのコーナーがあります。今年はタンペレにあるムーミン美術館とのコラボで、広いスペースには海が広がり、子供の想像力を刺激するようなコーナーが出来上がっていました。子供から大人まで楽しめるデザインフェアというのも、デザインが日常に根付くフィンランドならではの試みです。子供の頃から、デザインに触れることができるのは素晴らしいことです。
持続可能なデザイン
ヨーロッパでの熱波、ウクライナ戦争の影響による電気代の値上がりなど、ますます持続可能な社会にするための迅速な対応が求められる世の中ですが、デザイン業界でもその傾向がより色濃く反映されているようです。アアルト大学では、Design for a Cooler Planet(よりクールな地球のためのデザイン)という展示が開催されています。メインビジュアルもリサイクル素材を利用して作成されていました。中でも興味深かったのは、湿地生えるガマという植物に着目し、ダウンやポリエステルなどの中綿の代わりに、ガマから採れる綿を使って製品開発を進めるプロジェクト、fluff stuff。ガマを育てることで乾燥した泥炭地帯から排出される二酸化炭素を軽減できるのではないかと期待されています。
HDWは、これからわたしたちがどのような持続可能な社会を作っていきたいのかということを、様々な視点からヒントを与え、デザイン都市としてのヘルシンキの今を感じることができるイベントです。
この記事のライター
- フィンランド在住。2007年にフィンランドに移住し、アアルト大学でテキスタイルデザインを学ぶ。マリメッコ社でテクニカルデザイナーとして勤務した後、2014年より独立し、国内外の企業にデザインを提供する他、もみの木のテキスタイルなどオリジナルプロダクトをプロデュース。2022年に初のエッセイ本、フィンランドで絵本を出版。
最新の投稿
- フィンランド便り2024年3月5日フィンランドの女性の働き方・生き方
- イベント2023年10月6日秋はデザインの季節
- フィンランド便り2023年3月3日サウナの楽しみ方
- イベント2022年12月6日フィンランドの家族と過ごすクリスマス