フィンランドの「母の日と白い花」
4月も終わりに近づくと、長いこと雪で覆われていた大地が徐々に姿を現し、小さな命がひょっこり顔を出します。この頃に気持ちを和ませてくれるのは、クロッカス、スノードロップなどの小さな花たち。そして、5月に入るとValkovuokko(ヴァルコヴオッコ)という星のような形をした、小さくて白い花が咲きはじめます。近くの森を散歩していると、あたり一面に白い花が咲く様子はとてもけなげで美しく、散歩の足を止めてしばらく見入ってしまうことも。その花が、母の日が近づいてきたことを告げてくれるのです。
母の日の頃に咲くことから、子供たちがこの花を摘んで、母の日にプレゼントするのが昔からの習慣だったそうです。私の娘も野の花を摘むのが大好きで、いつも花を見つけては摘んで、プレゼントしてくれるのです。娘が摘んでくれたお花のプレゼントは、お店の花束のようにカラフルではないけれど、何よりも気持ちがこもっていてうれしくて、小さなガラスの花瓶に飾ります。
母の日の当日はサプライズが待っています。いつからの風習なのかわからないのですが、母の日や父の日の朝には子供たちが朝食を作って、トレイにのせてベッドまで運ぶという、まるで映画のワンシーンのような習慣があるのです。今から一年前の母の日のこと。目を覚ますと、下の階からなにやら音が聞こえてきます。寝ているフリをしながら、しばらく布団の中でごろごろしていると、娘と夫がトレーいっぱいになにやらのせてやってきました。
トレーには、焼きたてのクロワッサン、フルーツサラダ、カラースプレーがたっぷりかかったヨーグルト、オーツミルクたっぷりのコーヒー、りんごジュース、おもちゃのトーストや指輪セット、ヘアピン、娘が摘んできたお花。なんて豪華な朝ごはんでしょう!トレーには、娘のお気に入りのものがたくさん所狭しと並んでいて、私を喜ばせようと一生懸命選んでくれたんだなあと胸が熱くなりました。娘はまだ小さいので、ほとんどの食事は夫が用意してくれたものと思われます。感謝!
そのまま、ベッドで朝ごはんよりも、やはり皆で食卓を囲んで食べたかったので、結局トレーを持ってキッチンに行き、みなで朝食をいただきました。母の日は、朝からたくさんお祝いしてもらえる特別な日です。数年前までは、母の日や父の日はお店も全て閉まっていました。それくらい、フィンランドでは家族というのは何よりも大切にされていることなのでしょう。
2016年に母になり、初めてのことだらけで無我夢中の日々。さらに、娘が成長するごとに新たなチャレンジがやってくるので、自問自答を繰り返す日々。何が正解かわからず、ああすればよかったなんて思うことは日常茶飯事ですが、この何よりも特別な母の日があるだけで、普段の悩みもしばらく吹き飛ばしてくれます。
母の日が終わる頃には、待ちに待った桜の季節が始まります。 ヘルシンキの5月は胸がわくわくすることでいっぱいです。
この記事のライター
- フィンランド在住。2007年にフィンランドに移住し、アアルト大学でテキスタイルデザインを学ぶ。マリメッコ社でテクニカルデザイナーとして勤務した後、2014年より独立し、国内外の企業にデザインを提供する他、もみの木のテキスタイルなどオリジナルプロダクトをプロデュース。2022年に初のエッセイ本、フィンランドで絵本を出版。
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