フィンランドの「夏至祭」

暗くて長い冬のあるフィンランド。フィンランド北部では1日中日の昇らない日が続く極夜の季節があります。私の住んでいるヘルシンキはフィンランド南部にありますが、日は出るものの冬になるとなんとなく1日中暗く感じます。しかしそんな季節とは対照的にフィンランド北部では、長いところで2ヶ月以上1日中日の沈まない日が続く夏、白夜の季節があります。日の沈む地域でも日没と日の出の間がとても短くなり、感覚としてはやはり1日中明るい感じがします。

今月は1年で一番日の長い日がやってきます。1年で一番大切な祝日の一つ夏至祭の月です。毎年6月19日の直後の週末の土曜日が夏至祭になります。ちなみに1954年までは毎年6月24日に固定されていたようです。金曜日は夏至祭イブ、そして夏至祭の日の翌日は日曜日ですから、夏至祭の週末は毎年3連休になります。夏至祭は何百年も前から続いている伝統ですが、もともと収穫と繁栄を祈願して、お天気の神様、『Ukko(ウッコ)』をたたえる日でした。今では宗教的な意味はあまりないようですが、昔ながらの夏至祭の恋占いのようなものは続いています。

夏至祭の伝統の一つがコッコと呼ばれる大きな焚き火です。この焚き火には悪霊や悪運を払ったり、豊作を祈ったりするといった意味があるようです。日本にも同じような慣習がありますね。この大きな焚き火は個人でというよりも自治体などが中心になって実施されます。例えば、わたしの住んでいるヘルシンキでは屋外博物館のあるセウラサーリの焚き火が有名です。セウラサーリでは、その他にも民族音楽や民族ダンスを始め、誰もが参加できる夏至祭の様々なイベントが開催されます。夏至祭の週末は田舎のサマーコテージで過ごす人が多く、お店やレストランのほとんどがお休みになるので、この時期にフィンランドに旅行に訪れる人やサマーコテージに行かない人もこのイベントに行けば夏至祭の雰囲気が楽しめます。私も日本人の友達と一緒にこのイベントに参加したことがあります。ちなみにセウラサーリのメインの焚き火は、海の小さな島に設置され、幸運にもセウラサーリの教会で夏至祭の日に結婚式を挙げることのできたカップルが昔ながらのチャーチボートに乗って点火するというロマンチックな面もあります。

セウラサーリ島の夏至祭

私が一番最近体験した夏至祭の焚き火は、スキーリゾートとしても有名なルカの村でのものです。夏至祭の週末に友達とルカに旅行したときに地元の夏至祭の行事を楽しみました。焚き火のほかにも、行事を企画した責任者の挨拶や、夏至祭にちなんだ歌の披露など、なんとも手作り感あふれる夏至祭イブでした。

この行事を見た後は宿泊していたアパートメントホテルに戻り、部屋のサウナを温めました。

ルカに行く途中オウルという街のマーケット広場に立ち寄ったのですが、そこで白樺の若枝を束ねた新鮮なウィスクを買ってきました。このウィスクがヴィヒタ、サウナの中で体をたたいたりマッサージしたりして使うものです。実は、使ったことはあるものの私がヴィヒタを買ったのはそのときが初めてでしたが、新鮮な緑色のヴィヒタが並んでいる様子はとても印象に残っています。フィンランドの夏至、夏ってこんな色だなぁと思いました。ヴィヒタはアパートメントホテルのサウナで早速使って素敵なサウナの時間を過ごしました。フィンランドでは大切な祝日や様々なイベントの際にサウナに入るのが慣習です。1年で一番大切な祝日の一つ夏至祭も例外ではありません。

また、先にも触れましたが、夏至祭と言えば思いつくのがサマーコテージです。家族でコテージに行って、食事はバーベキューなどを楽しみ、サウナに入るというのが典型的なものかと思います。コテージ滞在中は人によって湖で泳いだり、テラスで本を読んだり、釣りをしたり、ただひたすらリラックスしたりしてのんびりと過ごします。

長い冬が終わり、待ちに待った春が訪れると、人々の心はすでに夏に向かいます。夏至祭まであと何ヶ月とか何週間とか、夏至祭の週末をどう過ごすかといったようなことを話しながらその日を楽しみに待ち望みます。フィンランドの夏はそれほど素敵なのです。そして夏至祭からフィンランドならではの長い夏休みを始める人も多いようです。

この記事のライター

松本 由美
松本 由美デジタルコンテンツクリエーター・翻訳者・ライター(Yumi Matsumoto Communications)
2008年にノキア・ジャパン社(東京)からノキア本社(ヘルシンキ)への異動によりフィンランドに移住。2013年からフリーランスとしてフィンランド政府観光局のSNSや様々なデジタルコンテンツの作成、翻訳、通訳、執筆などに従事。趣味は旅行、カフェやレストラン巡り。